2018
06.27

浅田レディースクリニック 杉本相談役インタビュー

インタビュー

今回は、医療経営オンライン初のインタビューとして、浅田レディースクリニックの杉本相談役にお話を伺いました。

浅田レディースクリニックは、不妊治療専門のクリニックとして多くの患者さんを救い、日本や世界を牽引しているといっても過言ではありません。名古屋と勝川にクリニックを構えているほか、今年の6月には新たに品川にもクリニックを開院されました。

杉本相談役がなぜ、こちらのクリニックへ来ることになったのか、そして、多くのスタッフを抱えるクリニックを束ねるために必要なことなど色々なお話を伺うことができました。

浅田レディースクリニックへ来られたきっかけについて教えてください。

以前は、日本オプティカルというコンタクトレンズを扱い、ジャスダックにも上場していた企業の取締役をしていました。そこには、社長と専務、そして常務が私を含め2名。取締役が4名おりましたが、医療法の改正により提携していただいていたコンタクトレンズ診療を中心とした眼科の継続が難しい状況に陥りました。

当時、800名近くの社員がいましたので、彼らの雇用を継続するできる企業へ売却をする一方で、役員4名は退陣をするという約束で私も経営から降りることになりました。

そこから3ヶ月くらいは、これまで出来なかったことをしながら過ごしていました。きっと、何処かから声がかかるだろうと思っていたのですが、3ヶ月経ってもなかなか声はかかりませんでしたね。

ちょうどそのとき、産婦人科医として開業している高校時代の友人に「面白いドクターがいるから、一度会ってみないか?」と紹介を受けたことが浅田院長とお会いしたきっかけになります。

そこから、すぐにこちらで働くことになったのですか?

これまで眼科を中心に、かなり多くのドクターと接点があったのですが、産婦人科の世界というのは初めてでした。第一印象で浅田院長の人柄に惹かれ、この人と一緒に仕事がしたいなとその時は思いましたね。

しかし、そこからすぐにいくつかの会社から声がかかりました。

一つはある調剤薬局チェーンを展開する会社で、老人介護事業を本格化したいとの社長の意向があり半年ほど役員として携わりました。

さらには、かつての取引があった外資企業の社長だった方がコンサルタント業務を立ち上げられており、その方から携帯電話に「コンタクトの業界でやり残したことはありませんか?」という突然の電話をいただいたこともあります。

私がかつて在籍していた日本オプティカルという会社は、コンタクトレンズ小売チェーンを展開し、全国で2番目のシェアを有しておりましたが、大資本をバックに持つNO.1には勝てませんでした。その方は、おそらくコンタクトレンズ小売業界のトップになりたいという私の気持ちをわかっていたのだと思うのですが、当時、業界3位だった企業の営業部長として、その会社をNO.1にしてくれないかというお声がけもありました。

しかし、浅田院長のことがずっと頭に残っていましたし、私のビジネス人生の最後をここで迎えるべきではないと感じてもいました。そして、たまたま浅田レディースクリニックのHPを見ると、名古屋駅前クリニックの立ち上げについて書かれていたのです。そこには、院長の言葉で「先に義あり、後に利あり」という先義後利について言及されていました。

その言葉を見て、「これは、私がいかざるを得ないのではないか」と半分、押しかけ女房のような発想が浮かび、「院長にもう一度お会いいただけませんか?」というメールを送ったところとすぐに会っていただき、その翌月にはこちらへ来ることになりました。

クリニックの成長という部分で、気をつけていることはありますか?

私の心情として、No.1のNo.2になりたいという思いがあります。自分としては、社長やトップという器ではなく、No.1を本当の意味で支えるNo.2の中のNo.1になりたいですね。

ただ、医療業界ではあるのですが、こと医療に関してドクターはじめ専門スタッフに任せ、私は全く関与しない方針です。もちろん、知識の面では知っておいたほうがいいこともあるので勉強はしましたが、診療については全く関与していません。

その代わり、経営とクリニックの診療を分離し、経営に関してはしっかり取り組んでいます。そして、トップを思いっきり輝かせることを一番に心がけています。

また、中核になるスタッフとの意思疎通はかなりとってきたつもりです。今は、総務・人事の部分は事務長を中心とした法人部のスタッフに任せているので直接的な関与はしていないのですが、とにかくトップを輝かせ、その夢や本当にやりたいことをサポートするようにしています。

クリニックの経営において、難しいと感じられたことはありましたか?

院長を慕うスタッフが多く、経営については、院長判断を仰ぐ必要があるところはきちっと報告をしておりますが、かなり任せていただいておりますし、事務長をはじめ精鋭が法人部にも揃いましたので、特に難しいと感じたことはなかったですね。

研究費やラボでも必要な投資をしていますし、新しい機器もどんどん導入しています。それなりに投資はしているのですが、クリニック自体が対前年比で伸び続けていますので、いくら投資をしてもそれが次につながるものであり、患者さんのためになれば全く惜しくないと思っています。

品川クリニックでも、浅田院長の中ではイメージが明確になっていますので、人材採用もどんどん進めていますし、ドクターも10人と言わず、20人は必要になるかと思います。

現在は、一人でも多くの患者さんに幸せを届けたいという浅田院長の考え方にスタッフ全員が共鳴し、「チーム浅田」を支えてくれています。

これが、院長が打算や個人の資産だけを考えているようでは、これだけの院長への求心力を醸成していくことは難しかったのですが、そういった私利私欲がない院長だからこそ、みんながついてきてくれているのだと思います。

クリニックの事務長が最も悩むことの一つに人事の問題があげられるかと思いますが、何か工夫されている点はありますか?

入った当初は、“その人がいるから下が育たない”というスタッフも何人かいましたね。

私が19年勤務したビジョンケア業界のNO.1企業を辞めた理由というのが、私自身がリストラをしていく立場にならなければいけなくなったからです。当時、私は営業副部長職だったのですが、トップからリストラをする立場になることを命じられた時に「私は自分と一緒に働いてきてくれた人間をリストラすることはできません」と伝えたところ「経営とはそういうものではない、その先の道を歩ませたいと思っているからこそ、憎まれてもやっていかなければならない」と伝えられたことがあります。

当時はそれがきっかけで辞めてしまいましたが、浅田レディースクリニックへ来て改めて、そのようなスタッフがいると組織が単に膨張で終わってしまうということに気がつきました。

そうではなく、我々は成長し拡大しなければならない、質を伴って量を増やしていくことが重要です。つまり、それが救う患者さんの数を増やすということに繋がり、それに対して阻害要因になるような人は、ドクターも含めて私が対応してきましたね。

院長の志に共感できなければ、組織の中で足を引っ張ることになります。

どうしても、262の原則というのはどこの組織にもあるのかと思いますが、強い志を持つ上位2割が全体の6割を牽引する。そして、ネガティブな発想・捉え方をしがちな2割はできるだけ少なくするのが私の仕事だと思っています。

優秀な人材に長く居続けてもらうために、どのような工夫をされていますか?

一番気にしているのは、院長の求心力をどう生かすかということですね。

さらに、私は企業で一番大切なことは継続性だと思っています。自分が一生、働ける職場であるかどうかということは、若いスタッフにとっても絶対に必要なことだと思っているので、院長の代だけではなく、院長が退いた後もこの組織が継続できるようにするにはどうしたら良いのかと日々考えながら取り組んでいます。

院長の志で作ったクリニックですが、職場としては院長に依存しない形まで持っていくことが理想ということでしょうか?

院長も後継者育成を重要課題として取り組んでおられますが、

私も、極論ですが、私の仕事を無くすことが、私の仕事だと思っています。

要するに、私は全体を見ていけばよく、それぞれが出来ることはそこでやってもらえればいいわけです。自分の仕事をどんどん消すことが、組織全体の運営をしていく上で大切ではないかと考えています。

例えば、10周年の記念誌を作成した時も、思いっきり人にフォーカスして作りました。やはり、企業は人が全てだと思っていますので、そう言った意味では院長が大好きだという人が集まって一つのノリを作る、いい意味で自浄作用を持つノッテいる組織を作るにはどうしたらいいのかということは常に考えていますね。

どのようなリスクマネジメントをされていますか?

最大のリスクは、浅田院長の心身の健康ですね。

トップは健康であることが必要不可欠なので、院長が健康を損なうことが私にとっては一番のリスクですね。

院長自身が気分良く過ごしてもらえる環境を作っていくことが、私にとってのリスクマネジメントになります。

スタッフには、どのような教育研修を施していらっしゃるのでしょうか?

今年から、幹部候補も含めて外部研修に行くプログラムを作りました。

医療機関ですので、取引先に対して“業者”といった言葉を使うスタッフもいます。しかし、そこはビジネスパートナーですので、対等なお付き合いをしていかなければならないですよね。

普通の会社でいう課長職とはどういうものか、当院の課長であっても、それが本当に社会人として通じるものかどうか認識してもらうため、外部の講習に参加してもらうようにしています。そして、隣の席になった企業の方と話をして、自分たちで回答を導き出すようなセッションを体験して欲しいですね。

こういったセミナーへの参加は今年からですが、将来的には全員参加にしたいと思っています。

また、これまで最も多くの患者さんを診察してこられた院長ですが、現在、名古屋と勝川では、出来るだけ、他の先生方が、患者さんを診るようにしています。そして、院長はいつでもドクターが判断に迷った時には、相談に乗れるようなスタンスを取っています。もちろん、6月に立ち上げました品川クリニックは、自ら率先して患者さんの診察をして新しく入職いただいたドクターを育成されていますし、10年後を見据え、優秀な人材をどんどん育てていく院長の姿勢は、明確に打ち出されています。

診療の手順書は、院長自身が「より良い結果がだせるもの、また、同じ結果であればよりシンプルなもの」に、毎月、監修に加わりリライトされています。将来的には、院長のノウハウをすべてAIに学習してもらい、AIが導き出した答えを他の先生が治療される判断要素に加えていくということもできればいいですね。

自由診療の比率の高いクリニックだからこそ、気をつけているということがあれば教えてください。

自由診療だからこそ当院の診療が成り立っていますし、これがもし、保険診療の規制を受けてしまうとその効果も半減してしまうのではないでしょうか。

薬剤の使い方も、それが不妊治療のために開発された薬剤でなくとも、結果が出れば使っていくというスタンスであり、それはもう規制を受ける保険診療である必要はなく、自由診療でいいと思っています。

また、話は変わりますが、厚生労働省や助成金を出している自治体などでは、どこのクリニックにいくら払ってどのくらいの結果が出ているのかわかっているはずですよね。それを公表してもらう必要があるとも感じています。

助成金も税金から支払われているいるわけですから、そのコストパフォーマンスは国として絶対に見ていく必要があるのではないでしょうか。

品川クリニックを開院されましたが、今後のビジョンについてお聞かせください。

院長は、今後10年間、浅田式生殖医療の後継者育成に尽力し、当院でその間、勤務された先生方が、ご出身の地区で「浅田式」を踏襲されて独立されるご意向があれば開業を応援していくつもりですし、今後は、他の病院、クリニックとの医療連携も更に強化し、日本全体の生殖医療レベルを世界のトップレベルまで押し上げ、多くの患者さんに喜んでいただきたいとの意向をお持ちですので、できるだけ、その意向に沿えるように、私も動きたいと思っています。

最後に伝えたいメッセージがあればお願いします。

自分が勤務する医療機関のトップが、尊敬できるドクターであるかどうかが、働く上で最も大切ではないでしょうか。

誰しも良い面と悪い面は持っていますので、尊敬できる点を見つけること、それをできるだけ多くのスタッフに認識してもらって、トップへの求心力を高め、強いチーム作りに努力をして欲しいなと思いますね。

<まとめ>
経営の面、そして人事の面からクリニックを健全に運営していくために必要なことをお伺いしました。
様々なご経験を経ているからこそ、院長を輝かせることが一番であり、そこに対する求心力を高めることに注力を注がれている姿勢は大変勉強になります。
この度は、インタビューをお受けいただきありがとうございます。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

<参考サイト>
浅田レディースクリニック
http://ivf-asada.jp

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