それ以上でもそれ以下でもなく

こんにちは、小柳です。GWはいかがお過ごしでしたか?新型コロナウィルス感染拡大防止のため自宅で過ごすことが増えていますね。仕事をする時間や機会が減り、社会的にも経済的にも辛い想いをされている方もたくさんいらっしゃることでしょう。

スタッフの経済的なことを考える時に今でもふと思い出すスタッフがいます。仮にAさんとしましょう。開業して間もない頃にAさんは入職しました。医療未経験者でしたが、理解が早く、よく気が付くとてもよいスタッフでした。勤務開始すぐに家庭の事情で経済的な問題を抱えているという話があり、そういう事情があるならばと思い、試用期間後に予定にしていた昇給を最初からして支給することにしました。契約書にない金額を加えて支給したのです。そして3ケ月の試用期間が終わると、Aさんは更なる支給額の増額を申し出ました。

Aさんの話はもう聞けませんが、家庭の事情があると話したら増額してくれたのだから「もっともらえるかも」と考えるように至ったのではないでしょうか。

そもそも採用の段階から希望の給与と支給額に開きがあったのかもしれません。院長は…というと、試用期間が終わればその額になるのだからという「厚意」での前倒しのつもりでした。採用してまだ3ケ月です。互いの信頼関係の構築も仕事の習熟もこれからという段階でそれ以上の増額は考えられませんでした。

では入職3ケ月のいわば新人が更に増額して欲しいと申し出る素地はどこから生まれたのでしょう?

私は契約外のことを書面も交わさずに行ったからだと考えています。「上乗せして支給」は心情的にはスタッフ想いでとてもよさそうに聞こえます。でも書面を交わさないことで、契約自体を「その程度ものだ」「交渉の余地がある」と思わせてしまったのだと思います。契約書は双方が署名・押印して取り交わし、職務内容及び支給に関する根拠です。これを曲げることはすべきではないのです。もし変更するのであれば、再度契約書を取り交わすべきでした。

Aさんのことは1つの例ですが、経験を積むうちに私は職場の管理者は「それ以上でもそれ以下でもなく」というスタンスが大切だと肝に銘じるようになりました。スタッフはそれぞれ事情を抱えており、事情を知ればそれに対応したくなります。小さな職場なので柔軟に融通をきかすことも可能ですが、本人はじめスタッフ全員のことを大切に想うからこそ心情的にこじれることないようにルールに沿った運用が必要なのです。

職場での主たるルールは契約と就業規則の2つ。何か配慮をするのであればこの中で考えます。出来ることと出来ないことがあります。それでもこの2つを「それ以上でもなくそれ以下でもなく」運用する、冷たく感じることもありますがそれが大切だと思うのです。

執筆者:Airi Koyanagi

薬剤師。大手調剤薬局チェーン勤務後、戸塚ヒロ眼科事務長として10年以上クリニックの運営に関わっています。医療スキルと患者様サービス及びスタッフの働き甲斐の3つを成り立たせたいと今も奮闘中

モバイルバージョンを終了